[データ]
“North By Northwest”
[監督] アルフレッド・ヒッチコック
[脚本] アーネスト・リーマン
[撮影] ロバート・バークス
[音楽] バーナード・ハーマン
[出演] ケイリー・グラント、エヴァ・マリー・セイント、ジェームズ・メイソン、ジェシー・ロイス・ランディス、レオ・G・キャロル、ジョセフィン・ハッチンスン、フィリップ・オーバー、マーティン・ランドー
[評価] ★★★★★
[あらすじ]
ニューヨーク。広告代理店を営むロジャー・ソーンヒルは、仕事で出向いていたホテルで、いきなり二人の男に拉致される。連れて行かれたのは郊外の屋敷。そこでタウンゼンドと名乗る男が現れ、ロジャーをキャプランと呼び、知っていることを白状するように脅迫される。どうやらキャプランという男と人違いをしていることが分るが、誤解は解けず、一味はロジャーに無理やり酒を飲ませ、車を運転させて崖から落として処分しようと試みる。
が、途中で警察が見つけて逮捕。命拾いをする。翌日には警察と共にタウンゼンド邸へ。しかし見知らぬ女性が出てきてタウンゼンドは国連に行っていると証言。ロジャーは単身国連に潜入する。ところが現れたタウンゼンドは屋敷で見た人物とは別人。しかも目の前でナイフで殺されてしまい、ロジャーが殺人犯として追われる羽目になってしまう。
そこでロジャーは本物のキャプランを追おうと決意。次の行き先がシカゴであることを突き止めて列車へと飛び乗る。が、警察もそのあとを追い列車へ。ロジャーは窮地に陥るが、乗り合わせていたイヴ・ケンドールという女性に匿われる。
美しいイヴにたちまち惹かれるロジャー。が、実はイヴは、偽タウンゼンドことヴァンダムなるスパイの愛人だった。イヴはキャプランからと偽り待ち合わせ場所をロジャーに教える。そうとは知らないロジャーはキャプランに会いに行くべくバスに乗り込む。そこは、プレイリーという畑しかない停留所だった ・・・。
[コメント]
派手なテーマ曲とともに始まる有名なオープニング・タイトル。今から何かが始まるのだという予感を見事に感じさせることに成功しています。何と言っても冒頭からラストまで見る者に息をつかせぬ展開。まさにサスペンスの神様がつくりだしたサスペンスの王様、といっても過言ではないのが本作品です。さらに言えば、驚くべきことに、当映画の製作は1959年。まだ展開にスピード感の乏しかった時代にこの作品が登場したことは奇跡といってもよいのではないでしょうか。当時の観客がスクリーンにかぶりつく様子が目に浮かぶようです。
ストーリーは、ヒッチコック十八番の巻き込まれ型スリラー。悪玉たちに自分たちを追うスパイだと間違われた男が恋に冒険に大活躍をするという、まさに夢のような話。このようなシチュエーションにあこがれてしまう願望は誰にでもあるはず。そこを見事につき、たちまち主人公に感情移入させて理性をまひさせ、その勢いで一気にラストまで引っ張っていく。ヒッチコックの手腕がいかに凄まじいものか。作品を見れば説明するまでもないでしょう。
ただしリアリティさが犠牲になっていることは否めません。スパイに間違われたり、殺されそうになったりする場面は、やはりこじつけに近い強引なところがあります。恋の物語もあまりにも急な展開。まあ、これは文化の違いもあるのでしょう。いずれにしても、非現実感を出そうとすれば起こる弊害。リアリティさを強調すれば当然作品の持つ世界観が陳腐なものになってしまうかもしれません。
主演ロジャー役は、すでに円熟味十分のケイリー・グラント。ヒッチコックは同じ俳優を繰り返し起用する癖があって、ケイリー・グラントもこれが四作目。相手、イヴ役のエヴァ・マリー・セイントもそうですが、いずれも演技に癖のない俳優を好んで多用しているようです。ケーリー・グラントはこのとき五十代半ばのはずですがこの若さはさすが。年を知っていれば、作品中出てくるロジャーの母親とのツーショット、特に、ママ、と呼んでいる姿がちょっとおかしかったりします。
そして本作の評価を決定的に高めたのが、絶妙の「間」を見事に緊張感の情勢に利用している点にあります。晩年にはこの間がかえって長すぎて弊害に、という欠点を生んでいますが、本作では実に絶妙の間隔とタイミング。前半の作品は、逆に間が乏しく淡白になりがち。本作はヒッチコック最盛期の作品であることを強く感じさせます。
終盤はもう手に汗握る展開の連続。ラピッド・シティからラシュモア山に至る一大攻防戦は有名なシーンとなりました。実は以前の作品にも同様のシーンがあり、こういった堂々としたシーンの使いまわしもヒッチコックのしたたかさの証と言えます。そうと分るマニアですら思わず息を詰めて見入ってしまうのではないでしょうか。
本作はアクションシーンも有名で、ラストのラシュモア山もそうですが、序盤、タウンゼンド邸から泥酔して車を運転するシーン、プレイリー停留所で飛行機に追われるシーンなど。シチュエーションのアイディアの奇抜さのみならず、映像の構図が何とも絵画的な美しさ。が、やはりそこは半世紀も前。今ならCGで補完してリアリティのあるシーンにするところでしょう。実は、ヒッチコック映画のアクション・シーンにはどことなく安っぽさが感じられます。人気監督でありながらも台所事情はさほど良くはなかったのかもしれません。
いずれにしても、ヒッチコック・スリラーのエッセンスが最もいいバランスで詰め込まれたのが本作。サスペンス映画の金字塔であると同時に、すべての映画ファン必見の一本であることに違いありません。
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