映画十撰 : 「獄門島」(1977年/日本/141分)

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「獄門島」(1977年/日本/141分)

[データ]
「獄門島」
“ごくもんとう”
[監督] 市川崑
[原作] 横溝正史
[脚本] 久里子亭(くりすてぃ)
[撮影] 長谷川清
[音楽] 田辺信一
[出演] 石坂浩二、司葉子、大原麗子、草笛光子、太地喜和子、坂口良子、浅野ゆう子、加藤武、大滝秀治、松村達雄、上條恒彦、ピーター、内藤武敏、稲葉義男、三木のり平、東野英治郎、佐分利信
[評価] ★★★★☆
 
[あらすじ]
 昭和21年。金田一耕助は友人の天宮から依頼を受け、瀬戸内海に浮かぶ小島・獄門島へと向かう。天宮は復員船の中で、戦友・鬼頭千万太(ちまた)の死を看取る。そして「自分が死ねば三人の妹が殺される。獄門島に行って助けてくれ」と遺言を受ける。しかし天宮は病気で行けず金田一に頼んだのだった。
 金田一は途中、島の了然(りょうねん)和尚や村長に出会い、千万太が継ぐ筈だった島の網元・本鬼頭へ導かれる。折しも傷痍軍人が来て、本鬼頭の分家・一(ひとし)の復員を伝えて帰ったばかり。本鬼頭を切り盛りしている一の妹・早苗の表情も曇る。一と早苗は早くに両親を亡くし本鬼頭に引き取られて育った。が、千万太の三人の妹、月代・雪枝・花子のはしゃぐ様子に金田一は驚く。どうやら知恵遅れのようだ。さらに座敷牢には数年前に発狂した当主・与三松が閉じ込められていた。もうひとり、家政婦の勝野は、そんな異常な家を献身的に支えていた。
 そこに分鬼頭の巴が訪ねて来る。分鬼頭は本家から独立して網元となった家だ。野心的な巴はかねてから本鬼頭の乗っ取りを画策していた。島に居ついた復員兵・鵜飼をあやつり、本鬼頭の娘を口説かせていたのだ。千万太が死んだ今、妹の婿となる者が本鬼頭の跡継ぎだった。
 その夜、千万太の通夜で花子がいなくなり騒ぎになる。そして千光寺の境内で、逆さ吊りで殺されている姿が発見される。花子は鵜飼からの恋文を持っていた。しかしそれは月代に宛てたものだった。花子がひそかに盗んだのだ。鵜飼は月代が来るはずが花子が来たため、隠れ帰ったと言う。一方、庫裏の鍵が壊され、軍人靴の跡が発見される。
 すると島の駐在・清水巡査はよそ者の金田一を疑い、強引に留置してしまう。しかし翌日、今度は雪枝がいなくなる。そして天狗の鼻と呼ばれる岬で、釣鐘の中で死んでいるのが発見される。県警から出張って来た等々力警部は、島に逃げ込んだ海賊の犯行とにらみ山狩りを開始。一方の金田一は、分鬼頭の当主・儀兵衛に会っていた。そこで、亡くなっている三人姉妹の母・お小夜に関する驚くべき話を耳にする ・・・。


[コメント]
 石坂金田一第三弾。瀬戸内海の架空の島、獄門島を舞台に繰り広げられる連続殺人事件に、名探偵金田一耕介が挑みます。叙情性に富み、登場人物のキャラクターに凝った一品でもあります。そのためにコミカルな面も強調され、ポピュラリティの高い作品となりました。

◆主要登場人物
・金田一耕助 ... 私立探偵。
・等々力警部 ... 県警。
・清水巡査 ... 島の駐在。
・鬼頭嘉右衛門 ... 本鬼頭。亡くなった当主。与三松の父。
・鬼頭与三松 ... 本鬼頭。現当主。発狂して座敷牢に住む。
・鬼頭千万太 ... 本鬼頭。与三松の前妻の子。復員船中で病死。
・鬼頭小夜 ... 本鬼頭。与三松の後妻。祈祷師。すでに死亡。
・鬼頭月代 ... 本鬼頭。小夜の娘(千万太の妹)。
・鬼頭雪枝 ... 本鬼頭。小夜の娘(千万太の妹)。
・鬼頭花子 ... 本鬼頭。小夜の娘(千万太の妹)。最初に殺される。
・鬼頭一  ... 本鬼頭分家。復員してくるとの報せがある。
・鬼頭早苗 ... 本鬼頭分家。一の妹。幼くして両親と死別。
・鬼頭儀兵衛 ... 分鬼頭。当主。
・鬼頭巴  ... 分鬼頭。儀兵衛の妻。本鬼頭乗っ取りを企む。
・鵜飼章三 ... 島に居ついた復員兵。分鬼頭に居候。
・勝野  ... 本鬼頭の住み込みの下働き。
・荒木  ... 村長。
・幸庵  ... 島の漢方医。
・竹蔵  ... 島の漁師。
・了然  ... 千光寺の和尚。
・了沢  ... 千光寺の修行僧。
・海賊の生き残り ... ?。

 前二作同様複雑な人間関係は覚えるのが大変。本鬼頭と分鬼頭、そして本鬼頭分家というのがややこしい。そこに他の村人や過去の人物が加わります。ところが最初に登場する片足の傷痍軍人が意外な伏線で、というよりも、連続殺人事件の発端はこの傷痍軍人にあると言えます。コミカルな登場の仕方で、後に登場するのは回想シーンでのひとコマだけ。しかし事件はこの傷痍軍人が持ってきた情報、鬼頭一(ひとし)が復員してくるという、実は安易な復員詐欺が引き鉄となってしまいます。
 物語は鬼頭家の跡継ぎ・千万太の死から始まります。「三人の妹が殺される」との遺言を遺して。金田一(石坂浩二)はその調査をすべく鬼頭家のある獄門島へと向かうのです。が、三人の妹は三つの俳句になぞらえるようにして次々と殺されてしまいます。
 物語を情緒面で支えるのは本鬼頭分家の娘・早苗(大原麗子)の存在。その気丈で健気な姿は少なからず感動を呼びます。「島から連れ出してほしい」と、金田一につぶやくあたり、ほのかなラブストーリーでもあります。が、次々と死んでいく本鬼頭の人間たちに悲嘆し、事件の背景を悟るにつき、苦悩を極めるわけです。
 後半、事件は、すでに亡くなっている本鬼頭元当主・嘉右衛門の遺言にあることが明らかとなります。実は、この犯人の動機は今ひとつ合理性には欠けます。犯人は俳句の意味通りに面倒なトリックを駆使して殺人を犯すわけで、わざわざ莫大な労力とリスクを背負うことになります。今で言えば猟奇殺人、サイコパス、ということになるでしょうか。心理的な側面からはちょっと現実味に欠けます。もっとも、アンチリアリズムは別世界感を演出する切り札でもあります。
 物語では序盤と終盤を巧みに対照させて描いているのが分ります。最初、金田一が向かうのは暗雲立ち込める獄門島。しかしラスト、金田一は白雲を戴いた獄門島をあとにすることになります。そこに響くのは冒頭で島に戻ってきた千光寺の鐘。それを鳴らすのは早苗。別れと新たな人生を同時に象徴するかのようにして物語は幕を閉じます。死から始まり死で終わるという悲劇的な物語。しかし最後に描いた希望には爽快感すら漂います。そして今回の金田一が犯人に示した同情と逃亡。ラスト、等々力に酔い止めの薬を渡すあたりもそうですが、非常に人間味のある金田一像に傾斜した一本でもあります。
 ホラー風味で絢爛世界を構築した「犬神家の一族」、怪奇色豊かにミステリーの王道を行った「悪魔の手毬唄」。そして今回はまた違った叙情性とユーモラスさを提供しているのが見事なところではないでしょうか。同じモチーフを使いまわすことの多い横溝作品ですが、市川作品では各話それぞれに個性がにじみ出ています。特に今回は夏の瀬戸内海。閉塞社会を開放的な背景で描いたことで、大変に見やすい雰囲気を醸成する結果となりました。ミステリーとしての評価はさほど高くありませんが、個人的にはシリーズ中最もお気に入りの作品ではあります。

[関連ページ]
「悪魔の手毬唄」 (シリーズ第2作(前作))
「女王蜂」 (シリーズ第4作(次作))


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犯罪の動機について
もりじょうさん,はじめまして。
 当方は,東京在住の68歳の男性。アマチュア数学者です。古くからの映画ファンで,特に市川崑監督の金田一耕助ものを愛好して居ります。
 ネットを遊泳中に貴方のHPに遭遇し,我が意を得た気持ちがしました。懇切丁寧なガイダンスと適切な批評に頭の下がる思いがします。引続きご活躍ください。
 『獄門島』に関して,犯罪の動機説明が不十分との御指摘がございましたが,私の理解はこうです。
 本鬼頭の頭が「殺してくれぇ」と和尚たち村の古株に頼んだ内容が,全てを語っていると思います。
 お小夜聖天の娘たちを殺して,彼女の血筋を根絶やしにすること。お小夜には,梅毒と邪教の害があり,狂気の遺伝と信仰による蔓延が心配される。呪われたお小夜の血を絶やし,村の健全な存続を保証してくれるように依頼しています。民族浄化と宗教戦争という動機があるのです。だから,和尚も結局協力しています。
 私も一番大好きな『獄門島』ですが,エラリー・クィンの『Yの悲劇』ばりの仕掛けを見事に日本化した文学センスと,泥絵の具で描きまくったような迫力ある映像を未だに忘れられません。
 摂田寛二:ゴンゾウ評論家,チャングム評論家

摂田寛二 URL 2008-10-24 (Fri) 05:07:54 編集
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