[コメント]
石坂金田一第二弾。山村で起こる連続殺人事件に名探偵・金田一耕助が挑みます。別々に起こる複数の事件が絡まり合い、複雑な人間関係が人知を超えた愛憎劇を形づくる、と、難解さは前作同様。しかし、本格ミステリーならではの醍醐味と絢爛たる別世界を十分に堪能できる一本であるには違いありません。そして本作はまた、同シリーズ中最も悲劇的な一本となりました。
まず、複雑多岐にわたる登場人物を主要人物に絞って以下にまとめてみます。これでも半分くらい。相変わらずこれらを覚えながら見るのは一苦労です。特にセリフだけで人物を説明するシーンも多く、本シリーズ共通の欠点と呼べるでしょう。
■主な登場人物
・金田一耕助 ... 私立探偵。
・磯川警部 ... 岡山県警。現在は閑職。20年前の殺人事件を追う。
・立花警部 ... 岡山県警。今回の事件を担当。
・多々良放庵 ... 元庄屋。放蕩で家を潰す。序盤で行方不明となる。
・多々良おはん ... 放庵の五番目の妻。昔別れたが復縁を請うてきた。
・由良淳子 ... 由良家の当主。昔からの名家だが今は斜陽。
・由良泰子 ... 淳子の娘。最初に殺される。実は淳子と恩田の娘。
・仁礼嘉平 ... 仁礼家の当主。村の新興勢力。ぶどう酒工場を経営。
・仁礼文子 ... 嘉平の娘。二番目に殺される。実は咲枝と恩田の娘。
・仁礼咲枝 ... 嘉平の妹。文子と引き離され鳥取の司家に嫁がされた。
・青池りか ... 金田一が泊まる亀の湯の女将。20年前夫と共に帰郷。
・青池源治郎 ... りかの夫。元弁士。20年前に恩田に殺される。
・青池歌名雄 ... りかの息子。由良泰子が恋人だった。
・青池里子 ... りかの娘。体半分が赤あざ。心臓が悪く土蔵に住む。
・別所春江 ... 恩田の元情婦。恩田が消えた後千恵と共に上京。
・別所知恵 ... 歌手。十数年ぶりに帰郷した。実は春江と恩田の娘。
・恩田幾三 ... 20年前の詐欺事件の犯人。青池源治郎を殺害後逃亡。
事件は迷宮入りとなった20年前の殺人事件が発端。迷宮入りとなったこの事件の捜査を、当時捜査に参加していた磯川警部(若山富三郎)が金田一耕助(石坂浩一)に託します。金田一にとっては警察官が依頼者という椿事でした。20年前(昭和6年)、突如現れた恩田という詐欺師によって村は大損害を被ります。その恩田を問い詰めに行った青池りか(岸惠子)の夫源治郎が返り討ちに遭い死亡。以来、恩田は見つからず事件は迷宮入りになってしまいます。
が、金田一が捜査をし始めた時、その恩田に当時離れを貸していた放庵(中村伸郎)が行方不明に。しかも死んだはずの別れた妻おはんから手紙が届き、金田一自身がおはんとすれ違うのです。一方、村の名家・由良家の娘・泰子が異常な状態で殺害。さらに新興勢力である仁礼(にれ)家の娘・文子も殺されてしまうのです。20年前の殺人事件、放庵の失そう事件と死んだはずのおはんの謎、そして由良泰子殺人事件。金田一はこの三つの事件を同時に追い、互いの関係性が見えないうちに後半へと突入していきます。そして最後には、恩田の驚くべき正体と共に、事件は悲しい結末を迎えるというわけです。
実は、なぜ犯人が手毬唄になぞらえる必要があったのかという疑問は最後まで払拭されていません。村の者ほとんどが覚えてすらいない手毬唄。そこに犯行の異常性があるとは見れますが、犯人は異常者という捉え方をしていないため、整合性は希薄のようではあります。そして問題になったおはんのトリック。峠で金田一にあいさつするおはん。実は犯人の変装ですが、金田一があいさつを返していたらたちまちばれそうではあります。しかし金田一は何も言わず見送るだけ。さらに犯人は放庵を殺害。しかしその死体をたった一人で運んで埋めたことになります。大変な時間と労力のはずですが、この点には物語は言及していません。本格推理小説の映画化の難しいところでしょうか。
しかしどろどろとした愛憎劇は物語に独特の情感色を醸し出しています。特に、歌名雄、泰子、文子の三角関係はこの事件の核心でもあります。磯川がりかにひそかに想いを寄せる辺りなどはちょっとしたユーモラスさ。いずれにしても、人の死を機械的に扱うことの多い本格推理の逆手をとった演出は市川監督ならでは。推理面以外からでも十分に楽しめるようにできています。
一度見て驚き、二度見て理解し、三度目で味を知る。このシリーズ共通の特徴は本作で確立されたように思います。何よりも非常にまとまりのいい作品で、全編統一感を失うことがありません。複雑多岐にわたる事件と人物、さらには過去と現在との錯綜、と、多少は散漫になってもおかしくないのですが、この点見事にまとめきったと見れます。この展開の美しさはシリーズ中随一となっています。本作が、他のシリーズ作品に比べ、一段高い評価となっている理由でしょう。