映画十撰 : 「悪魔の手毬唄」(1977年/日本/144分)

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「悪魔の手毬唄」(1977年/日本/144分)

[データ]
「悪魔の手毬唄」
“あくまのてまりうた”
[監督] 市川崑
[原作] 横溝正史
[脚本] 久里子亭
[撮影] 長谷川清
[音楽] 村井邦彦
[出演] 石坂浩二、岸恵子、仁科明子、草笛光子、北公次、高橋洋子、山岡久乃、林美智子、渡辺美佐子、加藤武、大滝秀治、中村伸郎、岡本信人、永島暎子、永野裕紀子、白石加代子、三木のり平、辰巳柳太郎、若山富三郎
[評価] ★★★★☆
 
[あらすじ]
 昭和27年、岡山県鬼首(おにこべ)村。金田一耕助は県警の磯川警部との待ち合わせで亀の湯に逗留する。ある時、宿の共同浴場で多々良放庵という老人と出会い、右手が不自由なので手紙を代筆してほしいと頼まれる。昔逃げた女房・おはんの復縁を請う手紙の返事で、それを承諾する内容だった。
 同じ頃、亀の湯の女将・りかの許に、仁礼(にれ)家の当主・嘉平が訪れる。仁礼家は村の二大勢力の一つ。娘・文子とりかの息子・歌名雄との縁談の話だった。当の歌名雄はもう一方の勢力・由良家の娘・泰子と付き合っていたが、りかは結婚はまだ早い、と、どちらとの結婚にも反対していた。
 その夜磯川警部が着き、金田一に20年前の事件の捜査を依頼する。昭和6年、村に恩田という男が現れ、モール作りの機械を売り歩く。が、半年後、機械を売り切ると仕事は来なくなり、皆大損害を被る。恩田は詐欺師だったのだ。その一ヶ月前、りかは、夫・青池源治郎とともに亀の湯を継ぐ為に帰郷していた。源治郎は怒って恩田の許へ。しかし逆に殺されてしまう。後頭部を殴られ、顔は焼かれて見分けがつかないほどだった。その後恩田は逃亡。事件は迷宮入りとなるが、磯川は単身調べ続けてきたのだ。
 早速金田一は、恩田の定宿へ聞き込みに出向く。その途中、峠でおはんと名乗る老婆とすれ違う。放庵の元女房だ。が、宿の女将・いとはその話を聞いて真っ青になる。おはんは昨年亡くなったというのだ。驚いた金田一は放庵の家へ。が、もぬけの殻。床には吐血のあとが残されており、トリカブトの毒が検出される。
 同じ頃、東京で歌手として成功した別所千恵が帰郷していた。千恵は母・春江が恩田と関係してできた娘だ。旧友たちが集い再会を喜ぶ中、来るはずの由良泰子はとうとう来ず、翌日、滝で死体となって発見される。死体のそばには、仁礼家の紋の入ったじょうごと枡が置かれていた。
 県警から出動した立花警部はまず仁礼家を疑う。しかし皆アリバイがあった。そんな中、金田一は、由良家の老隠居から驚くべき手毬唄を聞く。「三羽の雀が云うことにゃ .. 枡屋の娘 .. 上ばみ娘 .. 枡で量ってじょうごで飲んで .. 日がな一日酒びたり .. それでも足らずに殺された」 枡屋は由良家の屋号。泰子は手毬唄になぞらえて殺されたのだ ・・・。


[コメント]
 石坂金田一第二弾。山村で起こる連続殺人事件に名探偵・金田一耕助が挑みます。別々に起こる複数の事件が絡まり合い、複雑な人間関係が人知を超えた愛憎劇を形づくる、と、難解さは前作同様。しかし、本格ミステリーならではの醍醐味と絢爛たる別世界を十分に堪能できる一本であるには違いありません。そして本作はまた、同シリーズ中最も悲劇的な一本となりました。
 まず、複雑多岐にわたる登場人物を主要人物に絞って以下にまとめてみます。これでも半分くらい。相変わらずこれらを覚えながら見るのは一苦労です。特にセリフだけで人物を説明するシーンも多く、本シリーズ共通の欠点と呼べるでしょう。

■主な登場人物
・金田一耕助 ... 私立探偵。
・磯川警部 ... 岡山県警。現在は閑職。20年前の殺人事件を追う。
・立花警部 ... 岡山県警。今回の事件を担当。
・多々良放庵 ... 元庄屋。放蕩で家を潰す。序盤で行方不明となる。
・多々良おはん ... 放庵の五番目の妻。昔別れたが復縁を請うてきた。
・由良淳子 ... 由良家の当主。昔からの名家だが今は斜陽。
・由良泰子 ... 淳子の娘。最初に殺される。実は淳子と恩田の娘。
・仁礼嘉平 ... 仁礼家の当主。村の新興勢力。ぶどう酒工場を経営。
・仁礼文子 ... 嘉平の娘。二番目に殺される。実は咲枝と恩田の娘。
・仁礼咲枝 ... 嘉平の妹。文子と引き離され鳥取の司家に嫁がされた。
・青池りか ... 金田一が泊まる亀の湯の女将。20年前夫と共に帰郷。
・青池源治郎 ... りかの夫。元弁士。20年前に恩田に殺される。
・青池歌名雄 ... りかの息子。由良泰子が恋人だった。
・青池里子 ... りかの娘。体半分が赤あざ。心臓が悪く土蔵に住む。
・別所春江 ... 恩田の元情婦。恩田が消えた後千恵と共に上京。
・別所知恵 ... 歌手。十数年ぶりに帰郷した。実は春江と恩田の娘。
・恩田幾三 ... 20年前の詐欺事件の犯人。青池源治郎を殺害後逃亡。

 事件は迷宮入りとなった20年前の殺人事件が発端。迷宮入りとなったこの事件の捜査を、当時捜査に参加していた磯川警部(若山富三郎)が金田一耕助(石坂浩一)に託します。金田一にとっては警察官が依頼者という椿事でした。20年前(昭和6年)、突如現れた恩田という詐欺師によって村は大損害を被ります。その恩田を問い詰めに行った青池りか(岸惠子)の夫源治郎が返り討ちに遭い死亡。以来、恩田は見つからず事件は迷宮入りになってしまいます。
 が、金田一が捜査をし始めた時、その恩田に当時離れを貸していた放庵(中村伸郎)が行方不明に。しかも死んだはずの別れた妻おはんから手紙が届き、金田一自身がおはんとすれ違うのです。一方、村の名家・由良家の娘・泰子が異常な状態で殺害。さらに新興勢力である仁礼(にれ)家の娘・文子も殺されてしまうのです。20年前の殺人事件、放庵の失そう事件と死んだはずのおはんの謎、そして由良泰子殺人事件。金田一はこの三つの事件を同時に追い、互いの関係性が見えないうちに後半へと突入していきます。そして最後には、恩田の驚くべき正体と共に、事件は悲しい結末を迎えるというわけです。
 実は、なぜ犯人が手毬唄になぞらえる必要があったのかという疑問は最後まで払拭されていません。村の者ほとんどが覚えてすらいない手毬唄。そこに犯行の異常性があるとは見れますが、犯人は異常者という捉え方をしていないため、整合性は希薄のようではあります。そして問題になったおはんのトリック。峠で金田一にあいさつするおはん。実は犯人の変装ですが、金田一があいさつを返していたらたちまちばれそうではあります。しかし金田一は何も言わず見送るだけ。さらに犯人は放庵を殺害。しかしその死体をたった一人で運んで埋めたことになります。大変な時間と労力のはずですが、この点には物語は言及していません。本格推理小説の映画化の難しいところでしょうか。
 しかしどろどろとした愛憎劇は物語に独特の情感色を醸し出しています。特に、歌名雄、泰子、文子の三角関係はこの事件の核心でもあります。磯川がりかにひそかに想いを寄せる辺りなどはちょっとしたユーモラスさ。いずれにしても、人の死を機械的に扱うことの多い本格推理の逆手をとった演出は市川監督ならでは。推理面以外からでも十分に楽しめるようにできています。
 一度見て驚き、二度見て理解し、三度目で味を知る。このシリーズ共通の特徴は本作で確立されたように思います。何よりも非常にまとまりのいい作品で、全編統一感を失うことがありません。複雑多岐にわたる事件と人物、さらには過去と現在との錯綜、と、多少は散漫になってもおかしくないのですが、この点見事にまとめきったと見れます。この展開の美しさはシリーズ中随一となっています。本作が、他のシリーズ作品に比べ、一段高い評価となっている理由でしょう。

[関連ページ]
「犬神家の一族」 (シリーズ第1作(前作))
「獄門島」 (シリーズ第3作(次作))


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