[データ]
[監督] 黒澤明
[脚本] 小国英雄、久板栄二郎、黒澤明、菊島隆三、橋本忍
[撮影] 逢沢譲
[音楽] 佐藤勝
[出演] 三船敏郎、森雅之、香川京子、三橋達也、志村喬、西村晃、加藤武、藤原釜足、笠智衆、宮口精二、三井弘次、三津田健、中村伸郎
[評価] ★★★☆☆
[あらすじ]
日本未利用開発公団副総裁・岩淵の娘・佳子と秘書の西幸一の披露宴が盛大に催される。が、その最中、警察が訪れ、司会を務める契約課課長補佐・和田を逮捕してしまう。先に、大竜建設の経理担当重役・三浦が公金不正流用で逮捕されており、今回の逮捕で、公団と建設の贈収賄疑惑が持ち上がる。
しかし式場では、何事もなかったかのように祭事が進んでいた。しかしウェディング・ケーキが運ばれてくると、契約課長白井、管理部長守山、副総裁岩淵の顔色が変わる。それが、五年前、やはり公団と大竜建設の不正入札の対象となった新庁舎の形をしていたからだ。三人は、当時、役所で入札を取り仕切る立場にいたのだ。そして事件後、三人ともが、そのまま公団に横滑りしていた。さらにその時、古谷という課長補佐が三人の圧力で、新庁舎の七階から飛び降り自殺をしていた。こうして事件をうやむやにした経緯があった。
さらに三人は驚く。ケーキのある一転に、真っ赤な花が一輪刺さっていたからだ。そこは古谷が飛び降りた場所で、まるで何者かが事実を知っていて、事件を暗示したかのようだった。
式の後、警察は証拠をつかみきれず、逮捕した三浦と和田を釈放する。が、三浦もまた、上からの圧力で自殺してしまう。さらに和田も火口から身を投げようとしていた。ところがそこに西が現れ、和田を思い留まらせる。そして西は、白井と守山が、和田の死を笑っているテープを突きつけ、ともに復讐に立ち上がるよう説得する。西は、実は五年前に自殺した古谷の私生児だった。そして父の復讐を心に秘め、岩淵の秘書に潜り込んでいたのだ ・・・。
[コメント]
黒澤明監督の何ともダーティな一本。ショッキングなラストがあまりにも印象的で、一方では、終始黒澤監督ならではの泥臭い人間描写が物語を支配します。贈収賄をモチーフにしながら、家族を失っても組織が滅んでも役人は役人、という異常なほどの役人の醜さを浮き上がらせています。そして本作では、森雅之の老人メイクが強烈なキャラクターをつくっています。黒澤監督はメイク好き、なのでしょうか? 三船敏郎も若くして老人メイクをさせられたことがありました。老優を起用すれば済むことだとは思うのですが、ここが黒澤監督独特のこだわりなのでしょう。
冒頭、かなりの長い時間、結婚式のシーンが続きます。新郎は公団副総裁の秘書・西(三船敏郎)。そして新婦は副総裁の娘・佳子(香川京子)。が、副総裁・岩淵(森雅之)は、実は西の父の仇。岩淵らに自殺に追いやられた父の復讐を遂げるために、西はその懐に潜り込んだのです。
岩淵とその部下、守山(志村喬)と白井(西村晃)、和田(藤原釜足)は贈収賄を何とも思わないまさにダーティな役人。が、一方の西も佳子を踏み付けにして復讐を図るダーティーな性根の持ち主。西に正義がある分だけ、感情移入は西へと傾きます。
やがて西は親友の板倉(加藤武)とともに復讐を開始。一味の下っ端で自殺に追い込まれた和田を救うと味方に引き入れ、今度は白井を貶めようとするのです。そして白井は西たちの執拗なプレッシャーでついに発狂。が、一方では西の身分がばれてしまいます。その西にはさらなる誤算がありました。復讐の相手の娘・佳子を愛してしまったのです。それでも岩淵を破滅させるべく復讐を遂げようとする西。今度は守山を監禁して贈収賄の証拠を引き出そうとするわけです。
中盤まではむしろ痛快な復讐劇が展開。社会派の匂いを維持しながらも娯楽作品として十分楽しめる展開となっています。足の不自由な佳子への同情を集めつつ、西の人間味の描出も行われています。人間描写でも黒澤監督ならではの見事さを見せています。ただ、終盤の板倉の独白シーンもそうですが、黒澤監督は驚くほど長いワンシーンをつくることがあります。映画の展開がよりスピーディとなった現代では、やや間延び感があるのは否めません。また、冒頭、記者の口を借りて状況説明を行うシーンも今ではあまり行われていません。さすがに古さを感じてしまうのはやむをえないところでしょう。
物語は終盤、西と佳子が再会し愛を確かめ合うという、皮肉にも、人間らしい感情を取り戻したことがきっかけで頓挫してしまいます。岩淵は娘に西の居場所を問い詰め、娘を犠牲にしてまでも事件の隠蔽を図るのです。そして最後、家族に去られる岩淵。が、すぐさま役人としての醜悪さを取り戻します。果たしてそこに人間の暖かな血が流れているのかどうか。悪い奴ほどよく眠る、の題字が映し出され物語は終了。が、それはこれでいいのだろうかという、板倉の言葉どおり、そのまま見る側へ投げかけられた問題提起でもあります。真の解決は現実の社会で行うべき、そんな思いがこめられているのかもしれません。とはいえ、絶望感・無力感漂うエンディングは決して気持ちの良い終わり方ではなく、好みが分かれそうではあります。
贈収賄という社会悪を描いたというよりも、役人の醜悪さに鋭く切り込んだ本作。無気力な役人を描いた「生きる」とは、また違った役人批判の内容と言えます。そして製作から約半世紀。天下りや贈収賄の構図はいまだ改善されておらず、それどころかより狡猾に国民からの搾取が行われている現状。他の先進国の金権体質の改善が進む中、なぜ日本だけが遅々として進まないのか。考えさせられる映画ではあります。
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